第150回国会 衆議院 政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会
第6号 2000年11月02日
○阿久津委員 民主党の阿久津幸彦でございます。
今回与野党から提出されたあっせん利得に係る法律案は、十九世紀末に行われたイギリスの腐敗防止法の制定にも匹敵するほどの大事業だと考えます。一方、我が国の政治不信は極限に達し、私たち政治家にとって、国民の信頼を取り戻すための時間はもはやそう多くは残されていないように感じられます。与野党が真摯な議論を積み重ね、
この法案をよりよいものに高めていくことが必要です。そして、本法案を何としてでも今国会で成立させ、国民の期待にこたえなければならないと私も政治家の一人として痛感しているところでございます。
それでは、与野党の提案者等に、本法案の大きな論争点の一つであります犯罪の主体に私設秘書を含むかどうかという点を中心に質問をさせていただきたいと思います。
私は、かつて下積み時代に自民党の国会議員の秘書をさせていただいておりました。そして、幸い、あえてつけ加えておけば、その国会議員は非常にクリーンな人物でしたので、私も塀の内側に入ることなく、こうして公職につくことができたわけでございますが、ただ、私は秘書時代に、まさに私設秘書もやったし、公設第一秘書もやりました。そんな経験をもとに考えると、要するに、議員から言われれば何でもやるのが秘書の務めだというふうに考えております。私が実際に秘書時代にやったことを申し上げれば、後援会づくり、運転手、日程、資金集め、政策立案、随行秘書、さらに先ほども話にありました国会見学のガイドなどもさせていただきました。私は、こんな仕事内容を考えれば、公設も私設も大差ないのではないかというふうに思います。
ちなみに、あえて申し上げておけば、役所に物を頼んで、あなたは公設秘書ですか、あるいは私設秘書ですかと聞かれたことは一度もありませんし、私設秘書だからといってぞんざいな扱いを受けたこともございませんでした。
私設秘書がきちんと定義できるのであれば、私は私設秘書を含めるべきだというふうに考えております。議論を通じてその点を明らかにしていきたいと思います。
そこで、まず、参考人としてお呼びしております衆議院法制局にお伺いをしたいと思います。議員秘書、いわゆる公設秘書の法的な定義はどうなっているか、そこでは公設秘書の仕事の内容について規定はあるか、お話しをいただきたいと思います。
○窪田法制局参事 お答えいたします。
公設秘書につきましては、国会法第百三十二条に規定がございまして、国会議員の職務の遂行を補佐する秘書といたしまして、各議員に二人を付するものとされております。また、主として議員の政策立案及び立法活動を補佐する秘書、いわゆる政策秘書と申しておりますけれども、としてさらに一名を付することができるとされております。
国家公務員法第二条三項第十五号では、公設秘書は特別職の国家公務員であるとされております。特別職でございますから、直接国家公務員法の規定の適用はございません。
国会職員につきましては、国会職員法というのがございますが、これは国会の事務職員あるいは私ども法制局職員等の任用、服務等について定めているわけでございますが、この中には公設秘書は含まれていないというのが法律上の話でございまして、公設秘書につきましては、その給与の支給等に関しまして国会議員の秘書の給与等に関する法律に定めがある、法律上そのようになっております。
○阿久津委員 どうもありがとうございます。
要するに、公設秘書は国から秘書給与法により給与の支給を受ける以外は、職務上法律的には私設秘書と何ら変わらないということだと思うんです。
そこで、今度実際に、秘書の運用について先生方にお伺いをしたいと思います。公設秘書、私設秘書を皆さんお持ちだと思うんですけれども、具体的にその職務について、例えば公設秘書には何をやらせている、私設秘書には何をやらせているというふうにお答えいただければと思います。与野党の提案者に伺います。
○山本(有)議員 与党案の法案に言う議員秘書というのは、国会法第百三十二条に規定する秘書を言いまして、まず、議員の職務の遂行を補佐する者、次に、主として議員の政策立案及び立法活動を補佐する者というように規定されております。
一方、私設秘書につきましては、法律上の規定はございません。およそ、国会議員等との関係もさまざまでございまして、どのような職務にするべきかということについては、それぞれ区々ばらばらであろうというように考えております。
○辻元議員 秘書の仕事で、私たちは、公設だから私設だからという、身分による秘書の任務の区別がないのが今の実態ではないかというふうに考えております。そういうことで、公設にせよ私設にせよ、議員と有権者のための仕事を行うことには変わりはないというところから、特に仕事の明確な区分はない。
そして、その任務について具体的に一、二申し上げたいと思いますが、皆さんも御承知のように「衆議院議員秘書ノート」というのがあります。これは、衆議院の事務局監修で、全会派が入りました衆議院の秘書協議会がつくっていたものであります。ここにも詳しく出ているとおりですが、今委員も幾つか御指摘されましたけれども、陳情、請願の処理や質問資料の作成、党内の諸会議への出席、議員への報告、議員立法の補佐などもありますし、その他、議員の日程管理、送迎、会合の代理出席、祝電、メッセージの起草、後援会の運営、質問、陳情など議員の行動の広報や各種アンケートの処理、選挙データの整理、分析、選挙期間中における選挙活動、国会見学、委員会傍聴の手続、案内などもありますし、また、電話、来客の対応、新聞、雑誌、資料、会議録、官報などの収集そして整理、経理事務、政治資金の管理、報告書の作成、郵便物の記録、名刺、文書印刷の手配、公用車の手配、室内の掃除、乗車券の手配、事務用品の管理、会合などのセット、会議室、面談室の借用手続など、多岐にわたっています。
これを、どの議員の秘書が、これは公設の仕事、これを私設の仕事と決めているところがあるんでしょうか。このような多岐にわたる仕事を、公設、私設の秘書を問わず、協力して議員を補佐しているというのが秘書の仕事と考えております。
以上です。
○阿久津委員 どうもありがとうございます。改めて秘書というのは大変な稼業なんだなということを実感させられたわけでございます。
要するに、公設秘書も私設秘書も、実際の仕事上では政治家の命を受ければどんな仕事もこなすということで、違いはないんだと思うのです。要するに、国会にいても地元にいても、ある種の陳情が来れば議員にかわってその処理をし、その処理の仕方によってはあっせん利得行為につながる可能性があるということだと思います。
与党案では、犯罪の主体ということで公設秘書のみを扱っているのですが、ただ、一方で、公設秘書については一事項をちゃんと起こして、その内容についてきちんと定めていらっしゃいます。
そこで、与党提案者にお伺いをしたいと思います。犯罪の主体に公設秘書を加えた理由についてお答えいただきたいと思います。
○山本(有)議員 まず、この法律の保護法益は、政治公務員の政治活動の廉潔性とそれに対する国民の信頼というのが保護法益でございます。私設にせよ公設にせよ、政治公務員という定義を公選法に基づく選挙によって選ばれる者というように定義しますと、当然、公設、私設を問わず政治公務員ではございません。
しかし、この法律を全うしようとするときにどうしても、その権限に基づく影響力の行使は代議士だけに限られるのか。こういう実態を見ましたときに、先ほど委員御指摘のように、役所等への連絡あるいは依頼等は秘書さんがやられることも間々ございます。そういうことを考えたとき、この保護法益を全うするのには、その権限に基づく影響力の行使を議員、政治公務員と同等にできる立場にある者、そして政治公務員と同視され得るそういう人に限る。いわゆる公設秘書、これはもう範囲が明確でございますし、罪刑法定主義における明確性のもとにおきましては、公務員であることに何のちゅうちょもないわけでございますので、そのことから考えたとき、あえてこの公設秘書だけについては、この法の罰則規定の犯罪の主体に入れてしまおうではないか。ここにも与党の間には大変な議論がございました。しかし、懲役三年を政治公務員の処罰の限度としたのに比しまして、公設秘書におきましては二年というように軽減することによって、やっとこの公設秘書をもって政治公務員と同等のものとしての犯罪主体に加えたところでございます。
○阿久津委員 では伺いたいと思うのですが、公設秘書の行使し得る権限ないし影響力というのは、公設秘書という立場そのものから発生するのでしょうか、それとも公設秘書の上司たる国会議員の立場から発生するのでしょうか、どちらでしょうか。
○山本(有)議員 それは国会議員と秘書との間柄でありまして、必ずしも公設秘書というものが国会議員の影響力の行使をしているとは限りません。現実には、架空の秘書名義の人もあったという過去の事実までございます。
○阿久津委員 であるならば、少なくとも部分的には国会議員の権限に基づく影響力を行使し得る立場にあるのは公設秘書だけではない、私設秘書もそうだというふうに思うのです。
そこで、犯罪の主体に私設秘書を加えなかった理由について、与党提案者にお伺いしたいと思います。
○山本(有)議員 先ほども申し上げましたが、本罪は、政治に関与する公務員の活動の廉潔性、清廉潔白性とこれに対する国民の信頼を保護法益としております。したがいまして、私設秘書まで拡大することは、憲法の罪刑法定主義の要請に反するあいまいな規定となるわけでございます。
また、刑法のあっせん収賄罪という罪がございますけれども、このあっせん収賄罪は、これは職務上不正な行為をする場合に成立する罪でございますが、本罪は公務員に正当な職務の行為をさせた場合でも犯罪として成立するものでございます。したがいまして、いかようにも、だれでも適法な行為はするわけでございますが、その適法な行為に、請託を受けてその権限を行使するという範囲の犯罪主体を広くとらえた場合には、このあっせん収賄罪、刑法とのバランスを失するということになりかねません。
以上でございます。
○阿久津委員 バランスですか。ちょっとそこのところがどうしても納得がいかないのですけれども、要するに……
○山本(有)議員 適法な行為というのは、これは国民に対する公務上の実害はございません。契約をしましても、あるいは特定の者に対する行政処分をしましても、実害はございません。それでは、実害のないのに何で犯罪となるのかと、こう問われれば、それはすなわち国民の信頼だとか政治活動の廉潔性、そこを疑われたりあるいはそれ自体に疑問を投げかけられる、すなわち保護法益を侵害したということになるわけでございます。
先ほど申し上げましたように、国民の信頼というのは、政治制度全般、すなわち公職選挙法によってたまたま選挙をやったら受かった、受かった人に何らかの不正な利得があり得るということに対して我々は疑念を覚え、そして選挙というもの、民主主義のシステム全体に対する信頼を欠く、そこで我々はこの法律をつくるわけでございまして、その意味におきましては、政治公務員、公職選挙法における選挙というものが前提になっているわけでございまして、それから考えますれば、私設秘書というものを、適法なところまで処罰するということにおきますれば、それはもはや何の理由もないと言わざるを得ないというところでございます。
○阿久津委員 要するに、ちょっと保護法益のところで確認をしたいと思うのですけれども、与党案の保護法益というのは、公務の純粋性を守るということなのでしょうか、あるいは政治倫理の確立を図るということなのでしょうか、与党提案者に伺います。
○山本(有)議員 これは保護法益は二つございます。政治公務員の活動の廉潔性、そしてそれに対する国民の
信頼、この二つを保護法益にしております。
○阿久津委員 与党提案理由説明の中で、「国民の政治不信や政治離れは依然として根強いものがあります。国民の信頼と負託にこたえることが政治の原点です」とあり、また、「深刻な政治不信を重大に受けとめ」とか、「みずからの政治活動を厳しく律する必要がある」、さらに、「本法律案の罪は、公務員の職務自体の性質に着目し構成されている刑法のわいろ罪とはその趣旨を異にする」
としています。
要するに、私は、今政治倫理の確立に重点があるのではないかと思うのです。だとすれば、法体系からいって、刑法のわいろ罪の流れをくむというよりは、公職選挙法や政治資金規正法の流れをくむという法律になり、みずからわいろ罪とはその趣旨を異にすると述べているとおり、わいろ罪の流れにあるあっせん収賄罪との比較においてそのバランスをおっしゃるのは当たらないのではないでしょうか。私設秘書もその際対象とする連座制に倣って、本法案も犯罪の主体に私設秘書を含める方が明らかに自然だと思います。
そこで、野党提案者にお伺いしたいと思います。私設秘書の範囲をどのように定義するのでしょうか。
○辻元議員 政治家との不可分一体性から考えると私設秘書を除く理由にはならないなと思いながら、ただいまの与党の提案者の御答弁を拝聴しておりました。
さて、そういう中で、野党案は、私設秘書の定義は明確にあると思っています。それは「公職にある者に使用される者で当該公職にある者の政治活動を補佐するもの」という定義をしていますけれども、これは公職選挙法の二百五十一条の二の第一項五号の連座制の規定、内容をちょっと紹介しますと、「公職の候補者等に使用される者で当該公職の候補者等の政治活動を補佐するもの」という定義がございますが、これを援用したものです。
そして、本法案が対象としている私設秘書というのは、実態として公職にある者の指揮命令に従って労務に服する者ということで、必ずしも公職にある者から賃金を支払われている者であるということは要さないというように解釈しております。
さらに、「公職にある者に使用される者で当該公職にある者の政治活動を補佐するもの」については、形式や外見にとらわれることなく、現実に行われた実情に即して実質的に理解されるべきであり、本法の対象となる私設秘書の定義は明確であると考えています。
先ほどから与党の御答弁を伺っておりますと、私設秘書が本法の罪に当たるような行為をした場合はその議員が罰せられるというような答弁もありました。そうしますと、そういう定義ですと、私設秘書が議員との関連性を打ち消した場合、本法に当たるような罪を犯してもだれも罰せられないということが起こるのではないか。それを抜け道と言っております。
今までいろいろ批判されてきた事件を見ますと、秘書が議員の知らないうちにやりましたということで議員をかばうということは多々あったのではないでしょうか。議員をかばって自殺した人まで出ている。こういう事態で政治不信を招いている中で、私設秘書を明確に本法に入れるということは、そういう抜け道をはっきり防ぐという意思表示であると考えますので、ぜひこの法には私設秘書を入れたいと私たちは考えています。
○阿久津委員 どうもありがとうございました。私設秘書の範囲も確定できるということを確認した上で、再度、与党提案者に伺いたいと思います。
私設秘書が、もし国会議員の秘書であることを明らかにした上で口ききをして、その見返りに秘書本人が金品を受け取った場合、与党案では処罰できるのでしょうか。
○山本(有)議員 まず、その前提で、先生に大変鋭い御指摘をいただいたこの法律の本質論でございます。
わいろ罪かそうでないか、わいろ罪の法体系の中にあるのかどうかという問題につきましては、これは、政治家みずからが襟を正すという倫理法制の中の一つであるということは、先生御指摘のとおりでございます。ただし、懲役三年というかなり厳しい刑罰を科すという意味では、これは刑法典の中のいわば刑事罰、刑事学の、いわゆる刑法であることは間違いございません。
その観点から申し上げまして、贈収賄罪、特にあっせん収賄罪、ここにおきまして、処罰されるのは、他の公務員をして不正の仕事をさせるわけですから、全く実体のないところに補助金を出してみたりということをさせた場合、私設秘書もできるということになるわけですよ、この先生の論法でいけば。その場合、あっせん収賄罪は成立いたしません。あっせん収賄罪であれば公務員ですから。
ところが、この与党案のあっせん利得罪という法案は、他の公務員をして正当な、適法な行為をさせて、それで罪にさせるわけですから。不正を起こせばこれはあっせん収賄罪になります。不正でない部分もカバーしようというわけですから、そうすると、不正をしても罪にならないものが、適法なことをやらせて罪になるということは、バランスを失しないかということの疑問でございます。
さて、先生の御指摘のとおり、秘書が何らかの行為を他の公務員をしてやらしめて、それで不当な利益を得たという場合におきましては、それで政治公務員との関与が否定されたという事実関係のもとにおきましては、それは他の法制の中での処罰になろうというように思っております。
○阿久津委員 ということは、抜け道があるということなのかなというように思います。一方で、先ほど確認したよう
に、国会議員の権限に基づく影響力を私設秘書もまた行使し得るということは確認できたのだというふうに思うの
です。
きょうの私の質問を通じて、二つのことが明らかになったと思います。
一つは、秘書活動の実態という点で、公設秘書と私設秘書に大きな違いはない。私設秘書もまた公設秘書と同様に国会議員の権限に基づく影響力を行使し得る。あっせん利得行為を行う能力と、少なくとも可能性がある。私設秘書を犯罪の対象に入れることは、国会議員の権限に基づく影響力を行使し得るという点からも、法体系の整合性という観点から見ても何ら問題はない。
だとすれば、国民の政治不信を克服し、国民の信頼と負託にこたえるという与党案の趣旨からしても、私設秘書を犯罪の対象に入れることによって、国民に政治倫理の確立に向けた断固たる姿勢を示すことができるのではないでしょうか。逆に、私設秘書を犯罪の対象から除外することは、意図的に法律の抜け道をつくるという印象を国民に与えてしまう可能性が高いし、本法案がざる法とみなされてしまう危険性も極めて高い、そのように考えます。
本法案の対象に私設秘書も加え、よりよい法案をつくることが、国民の政治不信を払拭し、政治離れを食いとめる最良の方法であり、国民の信頼と負託にこたえるための政治の原点だと考えます。本法案には私設秘書をぜひとも犯罪の対象に含めるべきであるということを申し上げ、私の質問を終わらせていただきます。
どうもありがとうございました。